「天声人語」にあやかって「渓谷飛越」、つまりグレンオーヴァー。30年以上前に新聞で連載されていた珠玉のメッセージを全7回にわたって紹介する企画。今回は第5回、是非ご覧いただきたい。
尊敬する人は?と聞かれて真っ先に思い浮かぶのは「赤峰幸生」と「江頭2:50」。
先日、赤峰幸生氏から資料を整理している際に見つけた資料ということで、過去に新聞に連載していた「渓谷飛越」の記事をご連携いただいた。
全8編からなる「渓谷飛越」だが、第5回となる今回は6編目をご紹介させていただく。
いよいよ終盤となり、アジテーターとしての「赤峰幸生」が本領を発揮する。
ブレることのない赤峰幸生氏のメッセージをご覧ください。
本物という偽物
「マンジャーレ」とは、イタリア語で「食べる」こと。
「メシを食べよう」といった、あたたかく心地良い響きがある。よくイタリアへ出張するが、どこへ行っても、1人で楽しみながら”イタメシ”が食べられる雰囲気があるからだろうか。
グルメばやりの日本にも、やたらリストランテ(レストラン)がふえてきたが、ほとんどがカップル専用の「連れ込み」レストラン。外見はいかにも見事に、イタリア風のそれらしい仕掛けがしてあるが、ゆめ油断はできない。
先日も銀座にある「B」というイタリア料理店に行ったが、見かけとは大違いで、サービス、味、値段のどれをとってもD級だった。
いいレストランとは、新鮮な材料を使った(肉は別だが)その店のオリジナリティーのある味、料理を出すタイミング、それに値段が安いことが大切だと思う。
イタリアのレストランでは、音楽も流れないが、食事中の客の会話がムードを盛り上げてくれるのもいい。食べる方も、食べさせる方もいわば「食」のプロなのだろう。
先日、ミラノから来たイタリアの友人が嘆いていた。「なぜ日本のレストランはこんなに高いのか。表面だけを飾るのか」と。返す言葉に詰まった。
1人でゆっくり楽しみながら食べられ、会計の時にも、また来ようと思わせてくれる店に、日本ではめったにお目にかかれない。
商品知識が浅く、その場しのぎの接客、売り上げだけが頭にあって、いいものをていねいにすすめるのを忘れてしまっている。服の世界も同様だ。
「まずい」「はやい」「高い」では国際的に通用する服とはいえない。なかなかにむずかしいが、早く「マンジャーレ」の響きのような安心して食べられる服がつくりたい。おいしくて心のこもった服をめざそう。
さァ今日も、尾州にイキのいい”魚”を仕入れに出掛けるか。
食にこだわる赤峰幸生氏らしさが詰まった文章だ。
赤峰幸生氏は「衣食住」が大切だ、と繰り返し述べており、服だけを重視することは好まれない。ペットボトルは嫌いだし、コンビニで弁当を買うのも嫌い。朝は8枚切りの食パンをカリカリに焼いて、その上にマーマレード塗って食べる。その際に飲むものはミルクティーと決まっている。
そんな赤峰幸生氏が愛してやまないがイタリアであり、イタリア料理。
この思いがその後の「イル ボッカローネ」そして「ラ・ビスボッチャ」の監修に繋がったのかもしれない。
さて、食の話しから一気にアパレル業界を舌鋒鋭く刺しにいく。
商品知識が浅く、その場しのぎの接客、売り上げだけが頭にあって、いいものをていねいにすすめるのを忘れてしまっている。服の世界も同様だ。
今のセレクトショップの店員にも多く見られる傾向だ。1980年代と何も変わっていないのがよくわかる。壊れたように「お似合いですよ」と繰り返すばかりで、「似合っていません」とはっきりと言える店員などほとんどいないではないか。
おいしくて心のこもった服をめざそう。
この言葉に赤峰幸生氏の精神が集約されている。
Way-out、GLENOVER、Y.Akamine、そしてAkamineRoyalLineと続く系譜の中で、ブランドや時代による雰囲気の違いはあれど、この精神だけは全く変わっていない。
余談だが、筆者はイタリア料理店で気の抜けたパスタを食べさせられると、著しく気分を害す傾向にあり、食事を共にした妻にたびたび文句を言われている。
しかし思うのだ。イタリアンはラーメンやうどんと違い割高だ。であるならば、サービスも含めてしっかりするべきだと思うのだ。
高いものを売るのであれば
セレクトショップ等、アパレル店には高額な商品がいくつもある。
10万円、20万円するようなスーツだってたくさんあるだろう。そんな高額な商品を、全てとは言わないが、ろくな知識を持たない店員が売っているのだから恐ろしい。
ふと、思うのだ。こんなことは他のジャンルでもあるのだろうか。
高級料亭等の飲食店ではまずありえないだろう。そもそも売るモノが良く分からないなどプロではない、論外だ。
エルメスが何故高いのか?についてどこかで読んだ。うろ覚えだが、「世界最高の素材を使い、超一流の職人が作り、最高の立地に店を構え、しっかりと教育をした店員が売る」つまり安くなる理由がない。
日本のアパレル店はどうか?
高額なアイテムを売る資格はあるのだろうか?
1980年代から変わっていないのであれば考えた方がいいのではないか。
他の渓谷飛越の記事はこちら。
【渓谷飛越】時代を超えて現代へメッセージ【第1回】 - 1978 -アラフォーからの一生モノ探しー
【渓谷飛越】時代を超えて現代へメッセージ【第2回】 - 1978 -アラフォーからの一生モノ探しー
【渓谷飛越】時代を超えて現代へメッセージ【第3回】 - 1978 -アラフォーからの一生モノ探しー
【渓谷飛越】時代を超えて現代へメッセージ【第4回】 - 1978 -アラフォーからの一生モノ探しー
まとめ。
いかがだっただろうか。
今回は赤峰幸生氏の許可を得て、過去に新聞に連載していた「渓谷飛越」から全8編中の第6編目「本物という偽物」をご紹介した。
誤字脱字には注意したが、全て手で入力したのでもしあったなら申し訳ない。
筆者の感想は全て文中に記載させていただいた。
皆様はどう思われただろうか。
毎週1回の更新を予定しており、次回は第7編目「工場は向上しているか」をご紹介したいと思う。赤峰幸生氏らしく洒落が効いたタイトルだが、舌鋒の鋭さは増すばかり。
最後に赤峰幸生氏に心からの感謝を。